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銀行融資の審査基準を完全解説!審査担当者が見るポイント7つ

銀行融資の審査基準を、どれだけの中小企業経営者が「正確に」理解しているでしょうか。

決算書を整えること、担保を用意すること、自己資金を厚くすること。
どれも重要ですが、審査担当者の“本音”に触れないままでは、いつまでも「感覚的な融資申請」から抜け出せません。

私はこれまで、銀行の融資担当者として、また金融庁での制度設計を通じて、数多くの融資現場に立ち会ってきました。
「制度と現場の両方を見てきた」ことが、私の強みであり、現実の中小企業経営に寄り添える視点だと自負しています。

本記事では、銀行の審査担当者が実際に重視している7つのポイントを、背景も含めて解説していきます。
単なる“ノウハウ集”ではなく、「なぜ、それが重要なのか」を理解することで、次の融資申請を確実な一歩へと変えていただけるはずです。

銀行融資の基本構造を押さえる

銀行は何をもって「貸せる」と判断するのか

融資とは、単なる資金提供ではありません。
銀行にとっては、「回収できるお金」かどうかが最大の焦点です。

その判断材料となるのが、決算書に代表される財務情報、そして事業内容や経営者の人物像を含めた定性情報です。

とくに地方銀行や信用金庫などでは、「この会社なら返してくれる」と思わせる安心感が融資判断を左右します。
数字だけでなく、経営者の誠実な姿勢や、地域とのつながりが大きな意味を持つのです。

融資の種類と主な目的:運転資金・設備資金・借換

融資にはさまざまな種類がありますが、企業が銀行から受ける融資は、大きく以下の3つに分類できます。

  • 運転資金:日常の事業活動を回すための資金(例:仕入、家賃、人件費など)
  • 設備資金:機械や車両、店舗改装など、中長期の投資に用いる資金
  • 借換資金:既存の借入金をよりよい条件にするために組み直す資金

たとえば、飲食店が夏の繁忙期に向けて追加の仕入れ資金を必要とするのは「運転資金」。
製造業が新しいラインを導入する際に必要なのは「設備資金」。
そして金利負担を軽減するため、既存借入の一部を別の融資で借り換えるのが「借換資金」です。

このように、資金の“使い道”によって、審査の視点も変わることを押さえておきましょう。

融資の流れと関係者:営業担当から審査部へ

銀行融資のプロセスは、相談から実行までに複数の段階を経ます。

  1. 相談・申込:営業担当者が企業から融資相談を受け、ヒアリングを実施
  2. 書類提出:決算書・試算表・経営計画などを提出
  3. 内部稟議:営業担当が稟議書を作成し、支店長を経由して審査部門へ
  4. 審査・承認:本部の審査部が財務分析・人物評価を行い、可否を判断
  5. 融資実行:承認後に契約を交わし、資金が企業の口座へ入金される

ここで重要なのは、「審査を行うのは営業担当ではない」という点です。

いくら営業担当と信頼関係を築いても、それだけで融資が通るわけではありません。
稟議書に書かれる情報こそが、審査部にとっての“唯一の判断材料”となるのです。

審査担当者が重視する7つのチェックポイント

1. 財務内容の健全性(決算書の読みどころ)

銀行審査の第一関門は、決算書の健全性です。

とくに注目されるのは、以下の指標です。

  • 自己資本比率:自己資本が総資産に対してどの程度あるかを見る
  • 営業利益率:本業の収益性を示す
  • 債務償還年数:借入金をキャッシュフローで何年で返済できるか
  • 流動比率:短期的な支払い能力の目安

単年度の数値だけでなく、3期以上の推移を見て「改善傾向か」「悪化していないか」を評価されます。

また、「数字の裏付け」が取れない場合、たとえば異常に粗利率が高い、仕入が少なすぎる、というような違和感も敏感に察知されます。

粉飾は一発アウト
たとえ資金繰りが厳しいとしても、正直な数字のほうが信頼されます。

2. 資金使途の明確性と合理性

「何のために、いくら必要なのか」。

この説明が明確かつ合理的であるかは、審査の核心部分です。

たとえば「新規取引先との契約に伴い、月次仕入額が500万円から800万円に増加する。追加300万円の仕入資金が必要」といった説明は納得感があります。

一方で、「広告費を増やしたい」「余裕資金として確保したい」といった漠然とした説明は、審査担当者を不安にさせます。

資金の流れをロジカルに説明することで、貸し手側も「資金が生きる」と判断できるのです。

3. 返済原資(キャッシュフロー)の裏付け

融資の返済は、利益ではなく**キャッシュフロー(実際の資金の流れ)**から行われます。

審査では次のような項目がチェックされます。

  • 営業キャッシュフローがプラスか
  • 借入元本を返せるだけの内部留保があるか
  • 利益が出ていても、在庫や売掛金に資金が滞留していないか

特に「減価償却費」は、会計上の費用でありながら現金支出がないため、返済余力の計算においてプラス評価されるポイントです。

数字上の黒字よりも、「本当にお金が回っているか」が見られているのです。

ありがとうございます。
それでは、審査の残り4項目を詳しく解説いたします。

4. 経営者の人物評価と過去の実績

審査の中でも、数字には表れない最重要項目が、経営者本人の評価です。

銀行はよくこう言います。
「返すのは会社ではなく、社長だ」と。

評価のポイントは以下のとおりです。

  • 誠実な対応ができているか
  • 質問に対し、筋の通った説明ができるか
  • 過去の返済履歴やトラブルの有無
  • 長年の取引実績・信頼関係

私がかつて担当したある町工場の社長は、決して数字が強いわけではありませんでした。
しかし、毎月の試算表を欠かさず提出し、トラブル時にも早めに相談してくれました。
その結果、本部審査でも「この人なら大丈夫だろう」と判断が下されたのです。

人柄と信用は、審査の最後のひと押しとなる力を持っています。

5. 業種・市場環境・取引先との関係

「同じ数字の会社でも、業界が違えばリスク評価も変わる」。

これが銀行の常識です。

たとえば以下のような点が評価対象になります。

  • 業界の将来性や競争環境
  • 大手依存の取引構造になっていないか
  • 季節性・単価変動など、収益の安定性
  • 主力取引先の健全性と契約状況

業界が成熟していても、ニッチ分野で成長している企業は高評価を得られることもあります。

逆に、業界全体が衰退傾向にある場合は、他より厳しく見られる傾向があります。

6. 担保・保証の有無と妥当性

担保や保証人は、最終的なリスクヘッジのために必要とされます。

とはいえ、昨今の傾向として、担保重視の審査は徐々に減りつつあります。
特に政府系金融機関では、無担保・無保証での融資も増加傾向です。

しかし、民間銀行では以下の点が依然として審査対象になります。

  • 提供できる不動産の評価額(路線価ベースなど)
  • 第三者保証人の財務内容や関係性
  • 保証協会付き融資の活用余地

担保の有無が「融資の可否を決める」わけではありませんが、審査上の安心材料になることは間違いありません。

7. 経営計画書の整合性と実現性

最後の審査項目は、「これからの話」です。

未来をどう描いているか、それが審査担当者の胸に響くかどうか。

注目されるのは以下の点です。

  • 売上・利益・キャッシュフローの見通しが現実的か
  • 市場分析や競合との差別化ができているか
  • 施策と数値がつながっているか
  • 過去の実績との整合性

単なる「数字の羅列」では信頼されません。

「この会社は、自らの課題を理解し、それを乗り越える準備がある」と伝わる資料こそ、審査に強い経営計画書なのです。

よくある誤解と落とし穴

「売上がある=融資が通る」とは限らない

経営者の中には、「売上さえあれば融資は通る」と信じている方が少なくありません。

しかし、銀行が見ているのは利益でもなければ、売上の大きさでもありません。

大切なのは、「利益から現金が残っているか(キャッシュフロー)」という点です。

例えば、売上が1億円あっても、仕入や外注費でほとんどが消えてしまい、手元に現金が残らない会社は融資対象として評価されません。

さらに、「売上が伸びているのに資金繰りが苦しい」というケースもあります。
その原因は、売掛金の回収が遅い、在庫が膨らんでいる、など資金の滞留にある場合がほとんどです。

銀行は、売上の“質”を見ています。
量だけでは、審査は通過しないのです。

決算書の“粉飾”がバレる瞬間

「粉飾したほうが、融資が通りやすいのではないか」。

そう考える方が、いまだに存在します。
しかし、現実は逆です。

審査担当者は、決算書と試算表の整合性在庫や売掛金の異常値業界水準との比較などから、違和感を即座に察知します。

私自身も、かつて不自然な利益急増のあった会社に対し、仕入先へのヒアリングや、直近試算表との乖離から粉飾を突き止めた経験があります。

その後の対応はどうなるか。
最悪の場合、支店長決裁を超えて、本部の信用管理部に報告が上がり、以後の取引が厳しく制限されるケースもあります。

銀行員は、数字だけでなく「違和感」も見逃しません。

審査担当者が感じる「違和感」とは何か

銀行員が審査の場で最も恐れているのは、「説明のつかない矛盾」です。

たとえば、以下のようなケースは要注意です。

  • 毎月の売上が安定しているのに、預金残高が極端に少ない
  • 決算書では黒字なのに、常に資金繰りがひっ迫している
  • 商品力が強いと言いながら、リピート率が低い

こうした違和感は、書類や数値の精度が高いかどうかではなく、一貫性の欠如として捉えられます。

そしてこの「なんとなく不安」「どこか腑に落ちない」という感覚こそ、審査否決の一番の原因になるのです。

審査に強い企業とは、「数字と実態にズレがない企業」。
説明がつく状態にしておくことが、最善の備えとなります。

黒川が見てきた現場のリアル

経営者の「熱意」が数字を超えた瞬間

ある日、私は一人の若手経営者から融資の相談を受けました。
決算書を見た瞬間、正直に言えば「通すのは難しい」と思いました。赤字続きで、自己資本もほぼゼロ。

しかし彼は、業界再編の只中にある住宅リフォーム市場で、職人出身ならではの視点で差別化を図っていました。

試算表の提出も早く、経営計画書には「売上を伸ばす」のではなく、「粗利率を高める仕入先交渉戦略」や「広告費の抑制策」が緻密に記されていたのです。

私が「ここまで具体的に準備する人は珍しい」と伝えると、彼はこう言いました。
「この資料、寝る間を削って自分で書きました。融資が取れなきゃ、次の仕事が受けられないんです」。

結果として、稟議は通りました。
数字よりも、その行動力とリアリティが、私たち銀行員の心を動かしたのです。

「返済できる会社」と「返済しようとする会社」

銀行にとって安心なのは、返済能力の高い会社です。
しかし、返済しようとする意志が強い会社も、同じくらい信頼されます。

過去、私が担当していた金属加工業の社長は、決算内容こそ芳しくなかったものの、資金繰り表を毎月提出し、取引先との値下げ交渉の記録を自発的に提出してきました。

彼は常にこう言っていました。
「銀行に返すお金は、社員の生活と同じくらい大切です」。

こうした姿勢は、数字の良し悪しを超えて評価されます。
なぜなら、**「この人は返そうとしている」**という事実が、最終的な信用につながるからです。

金融庁時代に見た、制度と現場のギャップ

私が金融庁に出向していたとき、ある政策金融制度の見直しに携わりました。
そこでは「中小企業に資金を円滑に供給する」ことが最大の目的とされていました。

しかし、現場の銀行では「制度はありがたいが、審査負担が増える」との声も多く、実際には制度をうまく活用できていない中小企業が散見されました。

たとえば、制度融資を活用するには事業計画書が必要ですが、雛形を埋めただけの内容では、担当者に「やらされ感」が見透かされ、結局否決されるのです。

制度を知っているだけでは不十分。
それを“現場で活きる形”に変換する力が、企業にも、銀行にも求められているのだと痛感しました。

信頼される融資申請のためにすべきこと

経営計画書は「未来の説得資料」

審査における“最後の決め手”とも言えるのが、経営計画書です。

これは単なる数字の羅列ではありません。
**未来を「見せる」資料であり、銀行を納得させる“説得資料”**です。

信頼される計画書には、以下の特徴があります。

  • 現状分析が具体的である(SWOT分析など)
  • 売上・原価・利益の根拠がある
  • 施策と数値が対応している
  • 月次・四半期など、細かく区切られている

とくに重要なのが、「仮定の一貫性」です。
たとえば「来期の売上は1.5倍」と書くなら、それを支える施策(広告投下、営業人員増など)も必要です。

机上の空論ではなく、「こう動くから、こうなる」が伝わる計画書が、信頼を勝ち取ります。

銀行員と“信頼関係”を築くコツ

「うちは決算書で損してるんです」と嘆く前に、まずすべきは銀行員との対話です。

信頼関係を築くには、以下のような姿勢が評価されます。

  • 定期的に試算表・資金繰り表を提出する
  • 悪い情報ほど、早めに伝える
  • 質問には正直に、的確に答える
  • メールや電話のレスポンスを迅速にする

特に地方銀行では、「この社長なら安心」と思ってもらえるかどうかが、稟議における空気を大きく左右します。

つまり、審査のスタートは、書類ではなく日常のやり取りから始まっているのです。

黒川流:審査に強い資料のつくり方

最後に、私自身が現場で積み重ねてきた経験から、“審査に通る資料”の三原則をご紹介します。

  • 1. 事実をベースに書くこと
    想いも大切ですが、審査では「実績」と「根拠」が何より大事です。
  • 2. 数字とストーリーを一致させること
    売上目標や投資額と、そこに至る施策が矛盾していないかを丁寧に確認します。
  • 3. 審査担当者の“説明コスト”を下げること
    稟議は営業担当が書きます。だからこそ、**「説明しやすい資料」**が強い。 よくある質問や懸念点は先回りして記載しておくと効果的です。

「融資を取りに行く」のではなく、
「銀行と一緒に未来を描く」姿勢が、真に信頼される経営者の条件です。

まとめ

銀行融資の審査は、単に数字を見るものではありません。
本記事では、以下の7つの視点から、審査の本質を紐解いてきました。

  • 1. 財務内容の健全性
  • 2. 資金使途の明確性
  • 3. 返済原資の裏付け
  • 4. 経営者の人物評価
  • 5. 業種・市場環境
  • 6. 担保・保証の妥当性
  • 7. 経営計画の整合性

そして忘れてはならないのは、銀行は“敵”ではないということです。
彼らは、企業の未来を信じてお金を託す、共にリスクを背負うパートナーです。

ぜひこの記事をきっかけに、「融資=恐れるもの」ではなく、「金融機関との対話の場」として捉え直していただければ幸いです。