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決算書の見せ方で融資が変わる!銀行担当者を納得させる数字の説明法

「決算書で融資の可否が決まる」。

これは銀行融資の現場で、何千回と耳にしてきた言葉です。
しかし、それは決算書という“数字の羅列”が、そのまま融資可否を分けているという意味ではありません。

本当に大切なのは、「その数字をどう見せ、どう語るか」という点にあります。

私はこれまで、銀行の法人営業部や融資審査部、そして制度側の立場である金融庁も経験してきました。
制度と現場、両方を見てきた者として確信しているのは、**「決算書は事実以上に“印象”を伝える資料である」**ということです。

数字は確かに嘘をつきません。
しかし、「伝え方」次第で相手に与える印象は大きく変わるのです。

本稿では、創業期〜成長期の経営者の皆様に向けて、銀行員の視点をふまえた決算書の“見せ方と語り方”の技術をお伝えしていきます。
資金調達は企業の未来をつくる重要な行為です。
「数字で語る力」を磨き、融資というハードルを一歩、乗り越えていきましょう。

銀行担当者の目に映る決算書とは

決算書は“事実”ではなく“印象”を与える資料

決算書は、言うまでもなく企業の財務状態を示す公式な書類です。
しかし銀行員が最初に目にするのは、「数字そのもの」ではなく、そこから伝わってくる印象です。

たとえば、黒字決算であっても、売上の急激な変動や在庫の異常な増加があれば、「何かあったのではないか?」と疑念を抱かれます。
逆に赤字決算であっても、自己資本比率やキャッシュフローが安定していれば、「再建の道はある」と判断されることもあります。

つまり、決算書は“真実”を写す鏡であると同時に、“読み取る力”を試す資料でもあるのです。

担当者は、「この会社にお金を貸しても大丈夫か?」という視点で数字を見ます。
そのとき、企業側がどんな構えで資料を出し、どんな説明を添えるかで、与える印象は大きく変わるのです。

銀行担当者が最初に見る3つの指標

決算書を手にした銀行員が、まず確認するのは次の3点です。

  • 収益性(利益を出す力があるか)
  • 安全性(財務が安定しているか)
  • 返済能力(貸したお金を返せるか)

これらを評価する代表的な指標には、以下のようなものがあります。

1. 収益性の指標

  • 売上高
  • 営業利益率
  • 経常利益率

2. 安全性の指標

  • 自己資本比率(30%以上が目安)
  • 流動比率(120%以上が望ましい)
  • 現預金残高(月商の2〜3ヶ月分)

3. 返済能力の指標

  • 営業キャッシュフロー(プラスが基本)
  • 債務償還年数(10年以内が望ましい)
  • 借入金月商倍率(5倍以内が目安)

これらの数字は、融資判断の基礎情報です。
だからこそ、経営者自身がこれらの指標を把握し、「なぜこの数字なのか」を自分の言葉で説明できることが求められます。

「見せ方」で損をしている企業の共通点

多くの企業が、「悪い数字を隠そう」とするあまり、かえって不信感を招いてしまいます。
以下は、銀行員が「マイナス評価」を下す要因になりやすい例です。

  • 雑資産(貸付金・仮払金など)の増加:資金の使途が不明確。
  • 異常な科目増減(売掛金・棚卸資産など):説明のない急増は疑念の元。
  • 自己資本比率の低下:財務安定性に不安を感じさせる。

こうした「見せ方の失敗」を避けるためには、経営者が“伝える力”を磨くことが必要です。
次章では、数字にストーリーを持たせ、銀行員の「なぜ?」に応える技術を解説していきます。

融資を引き寄せる数字の説明法

数字にストーリーを持たせる:“業績”から“未来”へ

銀行員にとって、決算書の数字は「過去の実績」を示すものにすぎません。
しかし、経営者に求められているのは、その実績から「未来」をどう構想しているかを語ることです。

たとえば、売上が前年よりも落ちていたとしても、

「前年は主要取引先の業績悪化で売上が減少しましたが、現在は新規顧客の開拓が進み、今期は前年並みに回復見込みです」

このように過去→現在→未来を一連のストーリーとして説明することで、数字に意味と納得感が生まれます。

単なる数値報告ではなく、未来の経営計画と整合性の取れた説明があってこそ、銀行は「貸せる材料がある」と判断するのです。

「なぜこの数字なのか?」に答えられるか

決算書をもとに融資を申請する場合、銀行員からは必ず「この数字はどうしてこうなったのか?」という質問が投げかけられます。

ここで重要なのは、単なる「理由」ではなく、経営者自身の意思や判断が反映された説明であることです。

たとえば、販管費が急増していた場合──

「営業人員の増員により販管費が増加しましたが、その結果、新規案件の獲得数が倍増し、来期の売上見通しがプラスへ転じる見込みです」

このように、支出の背景にある戦略と、将来の回収見込みまでを一貫して説明できれば、担当者は「納得できる増加」として前向きに捉えます。

逆に、「数字を理解していない経営者」と見なされれば、どんなに売上が伸びていても、評価は下がります。

言い訳ではなく“背景説明”としての定性情報の使い方

銀行が求めているのは、言い訳ではなく、「説明責任」です。
数字が悪化した理由を正直に語りつつ、それが将来的にどう回復するかを伝える──これが定性情報の力です。

定性情報とは、たとえば以下のような要素です。

  • 市場の動向や業界環境の変化
  • 社内の組織体制や人材戦略
  • 顧客層の変化や単価調整の背景
  • 新規プロジェクトや設備投資の狙い

これらをうまく活用することで、数字に現れない“企業の可能性”を補足することができます。

実例:売上減でも納得された説明とは

実際に私が担当した企業で、前年より売上が1割減少していた会社がありました。
しかし、以下のような説明を行ったことで、無事に追加融資を得ることができました。

「旧来の取引先からの受注が減少した一方で、価格競争に左右されにくいBtoB分野へ軸足を移しました。新規契約は前期の2倍に増え、利益率は3ポイント改善しています。今期後半には売上も回復に転じる見込みです」

この説明により、「売上減=衰退」ではなく、「構造転換期の一時的現象」として銀行担当者は捉えることができたのです。

担当者の心を動かす資料の工夫

説明補助資料で「伝える」から「伝わる」へ

多くの経営者が見落としがちなのが、補足資料の有無が融資の印象を大きく左右するという事実です。

銀行員は、限られた時間と情報で融資判断を下さねばなりません。
その中で、「定量+定性」を簡潔にまとめた補助資料があると、決算書の内容が格段に「伝わりやすく」なります。

たとえば、以下のような資料を添えることで、説明の精度と信頼感が高まります。

  • 売上推移グラフ(3年分)
  • 主力商品別の売上構成比(円グラフ)
  • 財務分析指標の一覧表(自己資本比率・営業CFなど)
  • 今後の収益予測とその前提条件

これらは難しい資料ではありません。
Excelで作成した簡単なグラフや一覧で十分です。
重要なのは、「経営者が自分の数字を把握し、説明しようとしている」姿勢を伝えることなのです。

銀行員が安心する“定番フレーズ”と“避けたい表現”

資料の言葉選びにも、注意すべきポイントがあります。
銀行員は決して“文学的表現”を求めているのではありません。
簡潔で論理的、かつ信頼感のある言い回しが評価されます。

銀行員が安心する表現:

  • 「前年との比較では〜」
  • 「◯◯費の増加は、××のための先行投資です」
  • 「キャッシュフローの改善に注力しています」
  • 「今期は◯月以降の改善を見込んでいます」

逆に、以下のような曖昧な表現は避けるべきです。

避けたい表現:

  • 「なんとなく厳しくなってきた」
  • 「感覚的にうまくいっている」
  • 「詳しいことは担当に聞いてください」

このような表現は、「この人は経営の数字を把握していない」と見なされ、審査にマイナスとなります。

銀行内部の稟議書にどう反映されるかを意識する

経営者と面談する担当者は、融資を決定する立場にはありません。
彼らは、その企業の情報を「稟議書」として上司に報告する立場です。

つまり、担当者が「これはいい会社だ」と思っても、それを説得力ある資料と文章で“上に通せるか”が融資可否を左右します。

したがって、経営者が用意する資料や説明文は、「稟議書に転記されること」を前提にしておくべきです。

  • 担当者がそのまま使える表現で説明する
  • 説明内容に具体性と数字を盛り込む
  • 誤解のないように図やグラフを添付する

これらを意識することで、融資の稟議が通りやすくなり、意思決定のスピードも早まります。

黒川流・決算書説明のケーススタディ

ケース1:債務超過の製造業が新たな融資を得た理由

私がかつて担当したある中小製造業は、2期連続の赤字により債務超過に陥っていました。
このままでは通常の融資は難しい状況でしたが、決算書の“語り方”を変えたことで、逆転の融資を実現した事例です。

この企業が行ったのは、以下の3点でした。

  • 赤字の原因を明確に説明:「生産ラインの刷新に伴う一時的なコスト増」
  • 将来の収益改善を裏付ける資料を提出:新機械導入後の試作品発注実績、取引先との長期契約書など
  • 資本性ローンとの併用で財務の健全性を回復:制度融資を活用し、債務超過解消の道筋を提示

結果的に、銀行側は「赤字=危険」ではなく、「将来に備えた投資期」と判断。
担当者は上司に「回復計画に説得力あり」として稟議を通し、融資実行に至りました。

ケース2:黒字でも融資NGとなったサービス業の失敗例

逆に、黒字決算にもかかわらず融資を断られたサービス業のケースもあります。
原因は、**「数字の裏付けが一切ない成長見通し」**を提示していたことでした。

この企業は、「来期は売上が倍増する見込み」と説明していましたが──

  • 増収の根拠となる顧客リストがない
  • 営業計画も曖昧
  • 担当者の質問に「そこは考えていません」と返答

結果的に、銀行側は「経営者の感覚に頼る危険な経営」と判断。
担当者の稟議書にも「説明不十分」と明記され、融資は否決されました。

ここでの教訓は明確です。
「黒字」は融資の前提条件であって、決定要因ではない。
大切なのは、その数字の背景を語れるかどうかです。

ケース3:再生計画を軸に逆転融資を実現した老舗企業

ある老舗和菓子店は、コロナ禍の影響で売上が激減。
長年の取引銀行からも「追加融資は困難」と言われていました。

しかし、経営者が一念発起し、経営改善計画書を自ら作成
そこには以下の要素が盛り込まれていました。

  • 店舗依存からECシフトへの構想
  • 設備投資と人員整理のバランス
  • 改善後の収支シミュレーション
  • 資金使途と返済スケジュールの明示

さらに、計画の説明資料には過去5年の業績推移や客単価の変化など、“説得力ある数字”が添えられていたのです。

その結果──

「この再建プランには現実性がある」
「融資後の回収可能性が高い」

という評価を得て、新規の制度融資を獲得。
現在では売上も回復基調にあり、借入返済も順調に進んでいます。

まとめ

決算書は、単なる数字の集まりではありません。
そこには企業の歩み、経営者の意思、そして未来への展望が詰まっています。

しかし、そのまま提出しただけでは、銀行員に正しく伝わらないことがあるのも事実です。
だからこそ必要なのが、「語れる決算書」へと仕立てる努力です。

  • 売上や利益の変化には背景と戦略を添えて説明する
  • 一時的な悪化も、将来回復の根拠とともに語れば納得が得られる
  • 数字を補完する定性情報やグラフ資料が、理解を助ける

私はこれまで数多くの経営者と向き合ってきました。
「資金繰りの不安で夜も眠れなかった」と話していた社長が、翌年「黒字転換しました!」と報告に来てくれたときの笑顔を、今でも鮮明に覚えています。

決算書は経営者の“分身”です。
その語り方を磨くことは、単に融資を得る手段ではなく、経営者自身が自社と向き合う行為なのだと思います。

銀行との対話は、過去ではなく未来への投資です。
数字に魂を込めて、次の一歩を踏み出しましょう。

よくある質問(Q&A)

Q. 売上が前年比マイナスでも、融資は受けられますか?
A. はい、可能です。 売上減の理由と、それが一時的であること、または再建のための具体策が示されていれば、前向きに評価されるケースは多くあります。

Q. 資料は手作りでも問題ありませんか?
A. 問題ありません。 Excelや手書きでも、ポイントを押さえていれば十分です。重要なのは「自社の数字を理解し、説明しようとしている姿勢」です。

Q. 担当者と信頼関係が築けていない場合はどうすれば?
A. 資料と説明内容で勝負しましょう。 担当者は人間ですから信頼関係も大切ですが、上席の稟議を通すには「内容の説得力」が不可欠です。